[翻訳]Mark Fisher's unedited transcript of his interview with underground dubstep artist Burial

マーク・フィッシャーによるアンダーグラウンド・ダブステップアーティスト、ベリアルへの未編集インタビュー 



 Wire: あなたの音楽はこれまでもボーカルを中心に据えていましたが、今回の作品ではその比重がファーストLPと比べて更に増していますね。


 Burial: 私は主にボーカルの入ったクラシックなジャングルやガラージュを沢山聴いて育ったんですが、自分と兄はシリアスでダークなチューンにも夢中でした……そこには信ずるに足る何かがあると感じていたんです。自分で声を録音して作ったチューンも好んでよく聴いていました、それは殆ど誰にも聴かせませんでしたが。たとえ正しい歌い方でなくても、切り刻まれて反復され、冷たく処理されたボーカルを聴くのが好きなんです。まるで禁じられたサイレン(セイレーン)のようだから。私はそういう切り刻まれたボーカルに、ダークなベースラインと同じくらい夢中でした。サブ・ベースと、ロールするドラムとボーカルがいっぺんに鳴るのを聴くと、何かが起こるんです。それがピュアなUKスタイルの音楽だと思っています。自分にとってUKアンダーグラウンドでのハードコアなチューンがどれだけ大切なのかということに基づいた作品を作りたかったし、同時に、そこに誰もが聴いてうなずけるような自分自身の実生活の要素があって欲しかった。
チューンを作りはじめた時は、機材や音源も無くて何が正しい作り方なのかすら知らなかったから、一曲を通して支配的な迫力のあるドラムとベースを作ることができなかった。でも、そこに断片的なボーカルがある限りそれはチューンとして成り立つことに気付いたのです。その事実が私を虜にしました。そして、きちんとした音の「本物の」音楽たちが私に与えてくれたのと全く同じ感覚を自分のチューンからも感じられたことは、信じられないようなことでした。私にとってボーカルはチューンをそこまで押し上げた要素だったんです。私が好きで仕方なかったチューンはどれもムーディーでアンダーグラウンドでしたが、ボーカルにかけてはどれもキラーでした:Teebeeの’Let Go'、Foul Playの'Being with you remix'。Intense、Alex Reece、Digital、Goldie、Dillinja、EL-B、D-Bridge、Steve Gurley。学校までのバスの中でDJ Hypeのミクステを聴いていたあの頃が懐かしいです。チューンは時々友達から教えてもらうこともあったし、私も違法ラジオで流れるチューンをずっと録音していました。 


 Wire: あなたはお兄さんの影響で音楽を聴きはじめたんですね? 


 Burial: 兄はチューンに入れ込んでいました。レイヴチューン、ジャングル、そのすべてを身をもって体験していました。殆どずっと夜の向こう側にいたんです。彼は私と違って家に篭るタイプではなく、いつも遊びに出かけては私たちにその話を聞かせてくれました。車で町を離れて、どこかでパーティを見つけるたび飛び込んでいって、そこで流れていた音楽を私に聴かせてくれたのです。兄は私たちを座らせて古いチューンを聴かせてくれました。‘Metropolis’やReinforced、Paradox、DJ Hype、Foul Play、DJ Krystl、Source Direct、そしてテクノ。幼い頃には、そういうものに心を奪われるんです。でもその後は、興味を失うことはなかったけれど、皆生活の方に引っ張られていって自分も数年間は動けなかった。今でもチューンは買います、だって私はずっと、チューンを買っては友達に聴かせて喜ばせるためにコンピレーションを編集することが自分の使命だと思ってすらいましたから。それはライターの灯をかかげているようなものです。Jaffa Cakesを軸にして、そこにレアなガラージュチューンをいくつか滑り込ませる。チューンを作りはじめた時でさえ、私は友達を喜ばせるために頑張っていました。今もその気持ちは変わっていませんが、彼らは自分が今作っているような音楽をきっと気に入らないと思います……子どもの頃、誰もがジャングルやガラージュに夢中になるはずだと思っていたものですが、今となってみれば実際にはそんな知り合いなんて殆どいませんでした。
 
 Wire: あなたの音楽は、レイヴの余波、つまりレイヴを実際には一度も経験したことがないということについて書かれているように感じますが。 


 Burial: フェスに行ったことが無いんです。野外のレイヴにも。大きなウェアハウスや不法パーティにも行ったことが無くて、ただクラブや、屋内でチューンをかけている場所にしか出かけたことはありません。でもそれがどんなものなのか耳にするたび、私は夢みていました。兄が買ってくるレコードはどれも、自分の年からするとかなり大人向けだったと思います。初めてターミネーターやエイリアンを観た時のような感じです。断片的なあらすじだけ聞いてその世界を想像するみたいに、夜遅く帰ってきた兄がかけるチューンを聴きながら眠りに落ちてゆくんです。


 Wire: お兄さんを通してのみレイヴと出会った、という経験があなたの音楽にある悲哀を形成しているように感じます;なにが失われたのかを自分だけ知っている、それが他の人々には全く知り得ないことでも、というような。
 
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 Burial: まだそういうものが少しでも存在するとは自分には思えません。夜に聴く昔のチューンからはどれも、悲しみを抱かせる何かが聴こえます。自分が好きだったプロデューサーの何人かはもはや活動していません。かつてのトラックたちを聴いていると、希望を、UKの人々を結びつけるような希望を感じますが、実際にはそうはならなかった。UKは異なる方向へ変化したし、我々から遠ざかっていったからです。かつてUKのクラブや諸々にあったフィーリングというのは今のように人工的でも自意識過剰でもなかったし、インターネットによって作られたものでもなかった。それはどちらかというと噂や、アンダーグラウンドでの言い伝えのようなものでした。携帯電話もなかった。誰でも夜に飛び込んで好きなだけ探求することができた。なぜなら人々からそれを感じることができたし、彼らのまなざしの中にそれはあったのだから。レイヴァーたちは常に生の突端にいて、彼らは時代遅れでも先進的でもなかった。ただその瞬間そこにいて、そこではチューンがすべてだった。90年代になるとそれが彼らから奪われてゆくのがわかりました。すべては大資本のクラブと雑誌、トランス、コマーシャルに成り代わっていきましたから。デザイナー・バーはどこもかしこもクラブに鞍替えしたがっていた。物事は武闘派のアンダーグラウンドからそこまで変化したのです。時代は終わり、安全になり、なにかを見つけるための探求も、犠牲も、もはや全く必要なくなりました。メディアは今や、自分たちが何もかも企画しているということを隠す気さえありません。それでも、インターネットにせよなんにせよ、DMZやFWDはディープな空気感や本物のフィーリングを持ち続けていて、アンダーグラウンドは今も健在です。そこではいつも良質なチューンが鳴っている。 


 Wire: Kode9は、憂鬱そのものだった一枚目と比べて、今回の新作は「うつむきがちの恍惚」を感じさせると言っていました。


 Burial: かつてミックステープを聴いていた頃、ジャングルMCたちが言っていることを私は本気で信じていました。チューンを鳴らすことについて。私が受け取ったのはチューンを鳴らすための戒律です: 「鳴らせ。速くやれ。」自分は古いハードコアのダークサイドにどっぷり浸かっていたので、正統なダークさを湛えたレコードを作りたかった。最近の音圧重視のテックサウンドではなくてね。私が好きだったのは、エレベーターシャフトの中で死体を発見したかのようなかつての正統なダークサイドのチューンでした。しっとりした陰鬱なチューン。郊外のチューン。私はいつかハードコア時代のダークサイドに回帰したい。武骨で、映画からサンプリングした素材のピッチを上下させてストリングスと一緒に鳴らすような…。それはただピュアに無色彩なだけじゃない、それよりもっと…無人の建築物を引き裂いてゆくような音なんだ。実は、セカンドアルバムのために作った大量のダークなチューンをすべて廃棄したんです。どれもものすごい時間をかけて作ったんだけど。ファーストアルバムを出してから次作へのプレッシャーを感じて少し不安だったこともあって、どのチューンにも何時間もかけたし、プログラムの方法を学ぶのにとにかく必死でした。そうして出来上がったチューンはどれも遥かにダークで、遥かにテクニカルで、まるで何かの兵器をパーツごとに完全に分解したあとすべて再構築したかのような音でした。でも、あまりに時間をかけたので自分で嫌になってきてしまった。別のことに目移りしはじめたし。だから自分が満足できるレコードを、なにか自分自身を励ますことができるようなレコードが作りたくなった。何日もかけて精密なダークチューンを作るより、短時間で作りたかった。なにか暖かくて、紅潮するような、ジャングリスト的、ガラージュ的なレコードを。その時はGuy Called Geraldを聴いていましたね。ボーカルも自分で作りたかったけれど、彼のようにプロのシンガーを雇うことはできない。だからアカペラを切り刻んで語順を並び替えてセンテンスを作ったのですが、たとえ意味になっていなくても自分が感じていたことを要約してくれました。
Foul PlayやOmni Trioのチューンにある、隣の部屋で誰かが歌ってるようなあの感覚が欲しかった。だからとても低音質のボーカルを沢山持っていたんだけど、そのピッチを上下するところから始めました。誰でもすぐできますよ。自分はアルバム全体を二週間で完成させました。殆どは後半の一週間に。これを作った時、「間違っている」部分が至る所にありました。でも「そんなことどうでもいい」と言って手早く仕上げることができたのは本当に良かった。だからこの作品に関しては自分は擁護できるんです。夜中まで起きてチューンを作っている時……『イーストエンダーズ』(訳註;BBCのドラマ。ロンドン東部のスラム地域イーストエンドが舞台。)で観たんですが、彼らは夜中に街の両側の境界(訳註;Ends/Endz。ロンドンのスラングで出身地/テリトリーの意。)で火炎放射器を使って灯を掲げるんです。自分も夜中まで起きてチューンを作っている時、子守唄を自分で歌うように目を醒ましていてくれるボーカルが無ければできなかった。それが眠らないように自分にまじないをかけていてくれたから。



 Wire: ある種の逆・子守唄のようなところがありますね──眠りに誘う代わりに、目が醒めたままにしてくれるという!ファーストアルバムから伺われる影響元は主に90年代中盤のジャングルでしたが、今回の新作ではもっと新しい潮流、まるで2、3年ぶん移行したかのようにUKガラージュと2ステップの影響が感じられます。


 Burial: UKガラージュは大好きです、2ステップもTodd Edwardsも。長い間無視されてきたように思うし、音楽批評家たちはくだらないと言って見下していたけど、あれは現実に生きてる人々のための音楽なんだ。今でもあのチューンたちは巷で流れてる音楽より断然良いですよ。数少ないチューン好きの仲間で、私のチューンを車で試しがけさせてくれる奴がいたんですが、そこでも自分はいつもディープで深夜めいた、どこか疾走感のあるチューンが大好きでした……ガラージュとダブステップがそうですね、半分脈打っていて半分揺れているような……夜に車でかけるとすごく良いんです。それで、私は半分恍惚しているレコードを作りたかった。それこそがもう古くなってしまった、かつてのUKアンダーグラウンドの音楽にあったものなんです。そういう恍惚はUK特有のものだと思ってます。UKのレイヴチューンはその点において別格でしたから。なんというか、レイヴ特有の、半分笑顔で、半分がエンドルフィンの分泌、半分ドラッグの魅惑っていうあの感覚が……。そして、それは私たちのもとから盗まれて二度と戻ってこなかった。仲間は、私が「クジラっぽい」チューンを好むといって笑うんですが、そういうボーカルの音が本当に好きなんです。夜泣きのような、天使獣のような……。かつてのハードコアチューンにはそういう音がよく放り込んでありましたね、淡く白熱させて別世界に没入させてくれるような……Future Sound of LondonのPapua New Guineaとかね。あの感覚こそが好きなんです。外で凍えている時、落ち込んでいる時にだけあの震えが、私を暖めようと、私を取り戻そうとしてやってくる。その一瞬、それがまるで自分のためだけにあるような奇妙で不気味な距離感を感じて、自分を見失ってしまう。ある種のチューンは、まさにそれを表現しています。だから私は大げさなドラムやスネアで重苦しくする代わりに、切り刻んだボーカルとしなやかに跳ねるような感覚でそれを表現したかった。ガラージュのドラムは控えめでとてもソフトだし、しなやかであることに重きを置いていると思うんです。まるで魚の骨、背骨、音を包み込む外骨格みたいに。それは超ディープなキックとかバカデカいスネアとかいう問題じゃないんです。ドラムは、音とボーカルを縫い合わせてチューンの表面をちらつきながらリスナーの周りを取り囲むようなものであって、聴いてる人をズタズタにしたり音のデカさを競い合うのとは無関係なんだ。


 Wire: それはあなたがシーケンサーを使いたがらないことと関係ありますか? 


 Burial: 使い方を知らないっていうのもあるけど! 


 Wire: でも今から覚えることもできますよ!シーケンス臭く聴こえてしまうことはあると思いますけど。 


 Burial: それは多くの音楽に起こったことです。退屈なやり方でただ細かいだけ。大仰なイントロが好きではないんです。それがあるだけで、曲の残りの部分は永久に「残りの部分」になってしまって、イントロは永久にイントロのままになるから。曲の中に没入できなくなるし、自分がどこにいるのか常にわかってしまう。それだけで自分にとってはチューンの存在意義が無くなってしまう……そういう灰色の音楽には共感できないんです。 


 Wire: あなたのチューンには霧の中にいるような、霧散しているけれど包みこんでいるような感覚がありますね。 


 Burial: いくつかの音が入ってきて白くぼんやり光る。それ以外は沈殿していって燃え尽きる。 


 Wire: 他のインタビューで読んだことがあるのですが、あなたはチューンを作るのに画面を見ている時、グリッドを見るだけでそれが音として聴こえると話していましたね。


 Burial: シーケンサーを使っている人たちを見て、必死でそれを習得しようとしたことがあるんです。でも自分には色とりどりのブロックが並んでいるようにしか見えなかった。波形だけを見て作るのに慣れていたから。ドラムはそこまで聴かなくても作れるんです。良い音の時は波形がイイ感じの形、魚の骨みたいに尖っててガリガリした感じになってるから、それでもう十分だとわかる。自分のチューンはどれも少し屑めいてガタガタだけど、それが自分の知ってるやり方だから。いつかみんなが踊れるようなチューンを作りたいんです、挑戦したけれど…。 


 Wire: Sound Forgeでビートメイクなどできるわけがない、それは嘘だと言う人達もいましたが、それを聞いてどう思いましたか? 


 Burial: それって誰です? 


 Wire: インターネットの人たちですよ。Sound Forgeでアルバム作るなんてできるはずがないって。 


 Burial: 本当に?でも自分はできましたよ。インターネットかなんだかわからないけど、彼らの想像に任せます。確かに時々思いはします、カレッジに通って音楽制作の勉強をすればよかったって。でも大抵いつも「いや、クソ喰らえ。行かなくてよかった」って思う。あまりインターネットは好きじゃないんです、コックリさんみたいで。なんだか、誰かが俺の頭に入ってきて視界の裏側にいるみたいな感じがするから気味が悪いんだ。ランダムなものに明け渡してるみたいで。 


 Wire: 制作して放棄したトラックは今もどこかにあるんですか? 


 Burial: PCが壊れたので失くしたのがかなりあります。いくつかは無事に残っているからいつか復活させるかもしれない。でもそれに関しては自信が無い。学びたいことも沢山あるけど難しいんだ、いくつか失敗もあったし。次のアルバムに全力を注ぐはずです、真にダークサイドのベリアルのアルバムを作りたいんです。ステップアップして。 


 Wire: あなたの音楽の本当に素晴らしいところの一つに、空間の感覚があると思うのです。しかもそれはサウスロンドンに固有のものです。初めて聴いた時、それをずっと聴きながら私も住んでいるサウスロンドンを歩き回りました。本当にしっくりくるのです。


 Burial: そう言ってくれて本当に嬉しいです。自分もかなりの時間をロンドンを歩くことに費やしています……今までもずっとそうです。ある時はどこかに行かなきゃいけないから、それ以外の時はどこにも行くところが無いから。だからよく、どこかに行き着くためにずっと歩き回る羽目になる。一人でいてヘッドフォンで音楽を聴くこととクラブにいて周りに皆がいることは、別に何万光年も離れた物事じゃないと思う。何かを内側に招き入れて、自分がオープンになる。時々、それによって亡霊が心に触れたような気持ちになることがある。誰かが俺と一緒に歩いてるような。ロンドンでは、誰もがそれについてよく知っているあの感じというのがあって、でも口に出して言おうとするとそれは霧消してしまう。ロンドンは俺の中の大事な一部だし、それを誇りに思うけれど、それはダークにもなりうる何かなのだと最近は思う。それは夜、バスに乗っている時の感じなんだ。友達と一緒にいるときや、真夜中に自分の地元を横切って一人で家に帰るとき、大切な誰かと一緒にいるとやってくるあの瞬間、それかクラブから帰ってきて、夜眠りながらチューンをかけるとき。チューンに熱中すると、君の人生はチューンを中心にして包み込まれ始める。
俺は本当の生活、UKでの人生についてのチューンが聴きたい。USヒップホップみたいな「オマエのオンナとクラブにいるぜ」じゃなくて。R&Bチューンやボーカルは好きだけど、俺はドラムンベースやダブステップみたいな、UKでの真実についての音楽を聴くのが好きです。アンダーグラウンドの音楽を一度聴いてしまったら、それ以外は不自然な輸入品の広告みたいにしか聴こえないんだ。


 Wire: UKで生きていることがどういう感覚なのかをあなたの音楽は真に捉えているだけでなく、それはイギリス以外に住んでいる人々との絆も持ち合わせていると思います。 


 Burial: 誰かが世界の向こう側で不安を抱えているのがあなたにも聴こえるなら、あなたにはきっとできることがある。山岳地帯に行くと、焚き火が見える。他の人は野外で眠っていて、ディーラーたちは国境線を跨いでゆく。するとあの夜の感覚、眠っている他のみんなを知覚しているというあの感覚が訪れる。でもそれは全て炎の光なんだ。焚き火の光を見て彼らがそこに居るってわかる、それだけでいいんだ。それが離れた街や、砂漠、森、人々を繋ぎ止めているものなんだ。夜に自分の街を見晴らしていると遠くに光が、他のどこかでも炎が燃えているのが見えるはずだ。 


 Wire: アルバムの中で何度か天使が言及されていますね。なぜですか?


 Burial: 誰かと会って、もう会わなくなって、自分にとって何でもないものになっていくことがある。でも、全く知らない人に何もかもを託すことができる時もある、静かにその人々の心を信じながら。それは地下鉄でも店でも、どこでも起こりうる。自分がそうするのと同じように皆それをしていてほしいと思うこともある。時々、まだとても若いのに、困難の中にいて打ちひしがれているのに、誠実さを持って自分自身でいることのできる人々がいる。多くの人々がいつかそうなれたらいいのにと思う、一緒にそれを支えあって持ち堪えるために。このアルバムはそういう立ち位置にいる人のためにあって欲しくて作った。
足を滑らせて脱落して、完全に壊されてしまう、それはあまりに簡単に起こり得ることなんだ。殆どの場合、そこにはセーフティーネットすら無い。一曲のチューンが何もかもを意味することだってあるんだよ。御守りみたいに。 


 Wire: このアルバムに登場する人物はいずれも傷ついた、もしくは切り刻まれた天使のように感じます;翼をちぎり取られた、もしくは囚われ、裏切られた天使たちです。


 Burial: そう、普段誰もが経験していること、例えば日常的ないざこざとか、人間関係とか…いくつかの物事について考えを巡らせるとき……誰だってそういう時の感覚を知ってる。俺はそういうことについての歌を作りたい。ボーカルが天使のようにそれを成すチューンは、確かに存在するから。自分の作った曲を聴いていた時……俺は不安だった。ダークなチューンを沢山作って母さんに聴かせたんだけど、彼女はあまりそれを気に入ってなかった。もう辞めようかなとさえ少し思ったけど、母さんは優しかった。「ただチューンを作りなさいよ。誰の意見も聞かずに、心配しちゃあ駄目よ。」と言ってくれた。
その後、一緒に暮らしていた犬が亡くなって、俺は完璧に打ちひしがれてしまった。そしたら母さんが「チューンを作りなさい、負けちゃ駄目、夜中まで起きて紅茶を淹れなさい。」って言ったんだ。それから20分後に、すぐ母さんに電話した。「できたよ、母さんが作りなさいって言ったまさにそのチューンが!」って。そのボーカルは、明らかにそう言ってはいないのに「Archangel」って言っているように聴こえた。俺が女性ボーカルのピッチを下げるのが好きなのは、それが男の声のように聴こえるから。男性ボーカルのピッチを上げるのが好きなのは、女の子が歌っているように聴こえるから。それが死ぬほど艶かしく聴こえることがあるから。


 Wire: それは確実に活きています。レコードを聴いた時、ボーカルがどちらの性に属しているのか私には判別することができなかった。それに、天使には性別がないはずですから。
 
 Burial: 本当に?自分のチューンはいつもその方がしっくりくるんです、半分少年で半分少女の声、それもダークになりうるとも思う。誰でも時々、鏡を見るとそこに一瞬だけ悪魔の顔を見ることがあるはずです、間違った側面を、自分の眼の中にね。あなたも若い時、あなた自身とは何の関係もない強い力に晒されたことがあったはずです。そして迷子になってしまった、その間ずっと、自分に何が起こっているのかさえわからないんだ、何も。 


 Wire: 自分の音楽を女性が好きでもいい、女性たちが好きな曲を作ることに怯えてはいけない、とあなたがおっしゃっているのをどこかで読んだことがありますが。 


 Burial: でも、女の子だってダークな曲を好きでしょう。雰囲気的なことを言わんとしてるんだろうけど、ダンスミュージックには時として男臭すぎるものがあるよ。渇き切っているんだ。いくつかのジャングルのチューンには、女の子と男の子が同じ曲の中に存在していることによって生まれる均衡、火照り、気まぐれさがあって、それは、それらが近いがゆえに緊張感があるし、時として完璧な調和になるんだ。それに男には、女の子たちがどういうことを乗り越えてきたかとか、そういうことに関してクソほどの想像もできない所にいることがあると思うよ。俺を育てたのは母さん一人だ。俺は母さんの息子なんだ。俺の外見は母さんそっくりだ。俺は母さんそのものだ。俺が一緒に暮らしてる犬だってfemaleだ。…自分が何を言いたいのかわからなくなってしまったけど、俺の新作を聴いて──野郎たちはみんな「なんだよこれ?」って言うかもしれない。それでもそのガールフレンドたちはきっと理解すると思う。 


 Wire: でも、多くの男たちは、野郎っぽい音楽がもたらす以上の何かを音楽に求めているはずだって私は思う。


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 出典:Wire誌 Issue 286 2007年12月号「Burial: Unedited Transcript











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